2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

海に眠る⑶

一九八五年、冬。私たち二人は誰にも許されなかった、と言って泣いたひとりの女の子は、西の海に沈んでいった。冷たい世界を嫌った彼女は、冷たく白い波間に消えた。最愛の人をひとり残して。それは、最愛の人を世間の許さぬ道へと歩ませてしまった償いのよ…

海に眠る⑵

いつものように私と彼女は手をつないで小さな岬で海を見ていた。私たちはこの海が大好きだ。なんだかあたたかい気がする。今は冬だけれど、海の底の方はきっとあたたかい気がする。あたたかい海の底で暮らしたいね。あっちの岬の底には温泉も湧いているかも…

海に眠る⑴

西の海の、その底には、彼女が愛した彼女が眠っているのだという。 潮騒が彼女の声をかき消す。僕は彼女が泣いているのかと思ったが、ただ寂しそうに海を見つめているだけだった。シンプルな黒いワンピースが風に揺れている。夏の灼けつくような陽射しの下で…