泣かないで、君は僕の

瑞稀、って、呼び捨てで呼んでみても、もう胸の奥から音が鳴らない。いちいち躊躇うような時間が、熱くなる耳朶が、裏返ってしまう声が、そういうときめきの欠片が、見つからない。 推薦で受けた大学は合格の通知をくれた。進学先が決まって安心したのはその…

ありがとうもごめんねも違う話

これまで担降りというものをしたことが無い人種なので、いざ自分がその選択をするような気持ちになることも想像なんてしていなくて、好きだけで応援できたあの頃に戻れたらどんなに幸せなんだろうと思う。 アイドルなんてジャニーズなんて、縁もゆかりも無い…

海に眠る⑶

一九八五年、冬。私たち二人は誰にも許されなかった、と言って泣いたひとりの女の子は、西の海に沈んでいった。冷たい世界を嫌った彼女は、冷たく白い波間に消えた。最愛の人をひとり残して。それは、最愛の人を世間の許さぬ道へと歩ませてしまった償いのよ…

海に眠る⑵

いつものように私と彼女は手をつないで小さな岬で海を見ていた。私たちはこの海が大好きだ。なんだかあたたかい気がする。今は冬だけれど、海の底の方はきっとあたたかい気がする。あたたかい海の底で暮らしたいね。あっちの岬の底には温泉も湧いているかも…

海に眠る⑴

西の海の、その底には、彼女が愛した彼女が眠っているのだという。 潮騒が彼女の声をかき消す。僕は彼女が泣いているのかと思ったが、ただ寂しそうに海を見つめているだけだった。シンプルな黒いワンピースが風に揺れている。夏の灼けつくような陽射しの下で…

信じている

FireBeatを歌っているときのあの宙を睨むような目をわたしはこの先どんなことがあっても忘れないと思う。 階段から5人が降りてきたとき、世界の真ん中には確かにHiHiJetsが立っていた。少なくとも、私の世界は君たちだったのだ。どうしようもなく胸が踊った…

通過した夜の美しさ

春が過ぎ去っていくような、そんな気配がした。まだ微かに濡れている髪の毛を、そっと攫う風の行方を追えば、その先にあるのは満月を終えたばかりの月だった。 小さい頃、わたしは夜が怖かった。暗闇が口を開けて、全てを飲み込んでしまうと思って。 そうな…